英国における「ヘルシースクール」の動向

キーワード:英国、「ヘルシースクール」、「ヘルシースクール・プログラム」

はじめに
今日英国において「ヘルシースクール」の取り組みが活発である。ここではその取り組みの基盤となっている「ヘルシースクール・プログラム(National Healthy Schools Programme)」の展開を中心に、英国、特にイングランドにおける「ヘルシースクール」の動向について報告する。

1.イングランドにおける「ヘルシースクール・プログラム」の展開

(1)「ヘルシースクール・プログラム」の登場

1997年ブレア政権の誕生とともに発表された教育白書『学校に卓越さを(“Excellence in Schools”)』によって、多くの者に優れた質の教育を目指すことが示され、新たな教育政策が展開された。その白書をきっかけにすべての学校(公立)が「ヘルシースクール・プログラム」に参加するように援助がなされるようになった。

(2)「ヘルシースクール・プログラム」のガイド-「ヘルシースクール・スタンダード」と「ヘルシースクール・ステイタス」-
1999年、教育雇用省(Department for Education and Employment)と保健省(Department of Health)が協力して、「ヘルシースクール・スタンダード(National Healthy Schools Standard)」1)を作成、「ヘルシースクール・プログラム」が一気に展開されることとなった。そして2005年にはそれを改変し、教育技能省(Department for Education and Skills)と保健省(Department of Health)が共同で「ヘルシースクール・ステイタス-学校のための指導書-(National Healthy School Status ? A Guide for Schools)」2)を著し今日に至っている。「ヘルシースクール・スタンダード」と「ヘルシースクール・ステイタス」におけるヘルシースクールの定義は次のとおりである。

「ヘルシースクールは、生徒が最善をつくすこと、そして学業成績を築くことを有効に援助するものであり、限りない改善と発達  にかかわるものである。それは健康に関わるアクセス可能で適切な情報を提供することと生徒に健康に関する情報に基づいた意志決 定をもたらすスキルと態度を身につけさせることによって、身体的かつ感情的な健康を促進するものである。ヘルシースクールは、 健康に投資することが、生徒の学業成績のレベルを上げ、標準を改善する過程での援助のために重要であることを理解している。ま た、学習を進めるうえで、物理的ならびに人間関係の環境の両方を提供する必要性も認識するものである。」

「ヘルシースクール・プログラム」のねらいとしては、

  1)子どもたちと若者の健康的な行動を促進することを支援する
  2)子どもたちと若者の学業成績の向上を手助けする 
  3)健康の不平等を減らすことを手助けする 
  4)社会の一員となることを手助けする
ことが明示されている。

そして「ヘルシースクール・スタンダード」では、
  ・地域の健康に関する優先事項(
Local Priorities) 
  ・学校の健康に関する優先事項(School Priorities) 
  ・人格・社会性の発達及び健康教育(
Personal, Social and Health Education) 
  ・市民教育(
Citizenship) 
  ・喫煙・飲酒を含む薬物教育(
Drug Education including Alcohol and Tobacco) 
  ・情緒的な健康とよりよく生きること(
Emotional Health and Well-being) 
  ・健康的な食事(
Healthy Eating) 
  ・身体活動(
Physical Activity) 
  ・安全(
Safety) 
  ・性と人間関係の教育(
Sex and Relationship Education
という
10のテーマが示された。

2004年に公衆衛生白書『健康を選択する(“Choosing Health”)』によって、2009年までに75%の学校が高い水準の「ヘルシースクール」になるように目標設定がなされ、2005年にその水準を示す「ヘルシースクール・ステイタス」が著された。その「ヘルシースクール・ステイタス」では、テーマが4つに焦点化され、「ヘルシースクール・プログラム」が、イングランド全土でより強固に進められるようになった。
 
「ヘルシースクール・ステイタス」において焦点化された4つのテーマは次のとおりである。
  1)性と人間関係の教育そして薬物教育を含む人格・社会性の発達及び健康教育(PSHE including Sex and Relationship Education       and Drug Education
  2)健康的な食事(Healthy Eating
  3)身体活動(Physical Activity 
  4)情緒的な健康とよりよく生きること(Emotional Health and Well-being

2.「ヘルシースクール・プログラム」展開上の特徴

1)学校全体で取り組む(The Whole School Approach
 「ヘルシースクール・プログラム」を展開する際、・リーダシップ,マネジメントとマネジメントの変化 ・方針の開発 ・学校  外の機関と協力したカリキュラムの計画と遂行 ・教授と学習 ・学校文化と環境 ・子どもたちと若者の声を大切に ・生徒をサ ポートするサービスの提供 ・教職員の専門家としてのニーズ、健康、福祉を発展する ・親/保護者と地元地域との協力 ・子ど もたちと若者の達成を記録し報告し評価する、という10の要素を含む学校全体で取り組みことが強調されている。

2)国のレベル、地域レベル、地方レベルの連携・組織を密にする
 地方(Local)のレベルが、「ヘルシースクール・プログラム」の水準を達成する学校を支える鍵となる。そこには地方レベル   の「ヘルシースクール・プログラム」(Local Healthy Schools Programme)がある。この地方レベルのプログラムは、9つの地域に ある政府事務所内の地域コーディネーターによって支援される。国家レベルでは、保健省と教育技能省の専門家がチームを組むこと によって支援する。

3)達成基準を具体的に設け、それを評価する
 「ヘルシースクール・ステイタス」において焦点化された4つのテーマについて、その達成基準を具体的に設け、それを評価する  ことが強調されている。例えば、性と人間関係の教育そして薬物教育を含む人格・社会性の発達及び健康教育においては、・教育技 能省と資格・カリキュラム機関(Qualifications and Curriculum Authority)のオンラインのガイドにある計画立てられたプログラムの  PSHEフレームワークを利用する ・オンラインのガイドを用い生徒の進歩と達成を評価する ・学校禁煙方針を実行するあるいは  20079月までに学校敷地内禁煙への取り組みを行う、などである。

4)オンラインにて情報やガイドを利用できるようにする
 3)にも一部紹介したように、オンラインを使いインターネットにて「ヘルシースクール・プログラム」の展開に関わる情報が提  供されている。

おわりに

以上のように、英国、特にイングランドにおいてはこの10年ほどの間に「ヘルシースクール」の取り組みが推進されてきた。当初は健康を学業達成のための手段としてとらえる意味が強かったものの、現在ではそれを目的と手段の両面でとらえている。またその展開はとても積極的である。
なお、このような取り組みは基本的に私立学校には及ばない。しかしGCSEの実施やPSHEの重要性の認識などによってその差はかつてと比べて微妙に変化してきている。英国の教育政策は、当然ではあるが政権や景気がとても影響する。それらも含め今後の動向を見守りたい。

1) DfEE and DHNational Healthy School Standard Guidance. DfEE Publications, 1999
2) DfES and DHNational Healthy School StatusA Guide for Schools. DH, 2005